副業禁止の就業規則に違反したらどうなりますか?
”副業禁止の就業規則に違反した場合の処分”についてよく聞く回答は「最悪の場合には懲戒解雇になりますよ」でしたが、よーく調べてみると実は間違いでした!
“無許可での副業に対する懲戒解雇処分”に関して争われた裁判の判例ではビックリな判決がなされていたのです。
この記事では「無許可で副業した場合の影響」について、過去の裁判判決をもとに紹介していきます。
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”副業許可制への違反”に対する判決
2008年の裁判です。
大学教授が無許可で副業し、大学講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇処分に対する判例です。
副業は夜間や休日に行われており本業への支障は認められないことから「解雇無効」とされました。
判決では以下のように述べられています。
兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。
東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
出典:厚生労働省:副業・兼業に関する裁判例
つまり、
労働契約上の権限が及ばないプライベートの時間の行為であれば、例え副業許可制に形式的に違反したとしても、本業の勤務先に悪影響がない程度の副業であれば、副業禁止の就業規則には実質的に違反していないものと解釈すべきだよね。
と言ってるんですね。
そうですか!そうなんです!本業に悪影響を及ぼさなければ、副業をしても大丈夫なんですね!
裁判での判決ですからね!
”副業申請の不許可”に対する判決
続いての判例は、副業の許可申請を4度にわたって不許可したことについて争われた2012年の裁判です。
判決では、
合理的な理由がない限り、プライベートの時間に副業することは許容されなければならない
と結論づけられました。
具体的には以下のように述べられています。
労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許されなければならない。
もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。
マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)
出典:厚生労働省:副業・兼業に関する裁判例
つまり、「合理的な理由がない限り副業は許可されるべき」という判決ですね!
日本の最高法規で定められた権利
これまで副業制限に関する2つの裁判例を紹介しました。
紹介した2つの判決から分かるのは、基本的に副業はOKとされなければならないが「合理的な理由」があれば制限できますよ!ということです。
これらの判決は、日本の最高法規である日本国憲法の国民の権利を尊重しているのでしょう。
日本国憲法の第22条第1項では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と規定されています。
国民には、自身が従事する職業を決定する自由とその職業を遂行する自由が保障されているのです。
日本国憲法
〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。〔個人の尊重と公共の福祉〕
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。〔居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由〕
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
日本の最高法規では”職業選択の自由”が保障されています。これを制限するには相当な理由が必要なんですね。
一方で日本国憲法でも「公共の福祉に反しない限り」との注記がされているのが分かります。
裁判の判例でも「合理的な理由がない限り」という条件がありました。
それでは副業を制限できる「合理的な理由」にはどのようなことが考えられるのでしょうか?
副業を制限できる合理的な理由
”副業を制限できる合理的な理由”については、厚生労働省が公表している『副業・兼業の促進に関するガイドライン』に記載されています。
副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合に該当する場合と解されている。
簡単にいうと、
本業に悪影響を及ぼすほどの副業は許容できないよ!
ということですね!
自身が社長になった立場で考えれば当然と言えば当然です!社長の立場から考えれば本業を疎かにする従業員なんてイヤですもんね!
ちなみに、副業禁止に違反した行為自体が「④信頼関係を破壊する行為がある場合」に該当するのでは?と争われた裁判でも、「信頼関係を破壊したとまでいうことはできない」とされた判例があります。
原告らが行った本件アルバイト行為の回数が年に1,2回の程度の限りで認められるにすぎないことに、証拠及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告らのこのような行為によって被告の業務に具体的に支障を来したことはなかったこと、原告らは自らのこのような行為について会社が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない。
十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)
出典:厚生労働省:副業・兼業に関する裁判例
副業制限に抵触しないために絶対順守すること
過去の判例から「法的に副業は認められるべき」であることが分かりました。
しかし気を付けなければならないことがあります。
副業申請する場合又は無許可で副業する場合に、絶対に順守しなければならないことは「本業に悪影響を及ぼさない」ことです。
例えば、法令に違反していないか、労働者の3大義務である職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務に違反していないか、などが挙げられます。
つまり、
- 勤務時間中は本業に専念しましょう!
- 睡眠不足・疲弊しすぎて本業のパフォーマンスに悪影響が出ないようにしましょう!
- 本業の機密情報を外部に漏らしてはいけません!
- 本業の勤務先と競合する会社への雇用や起業をしてはいけません!
- プライベートでも違法行為をしてはいけません!
などの社会人として当然のことを気を付ければ良いわけです。
仮に副業制限に抵触した場合の処分の程度は、上記に挙げたような法令や職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務に違反していないかによって、大きく左右されることになります。
まとめ
過去の裁判例をもとに、
- 基本的に副業はOKとされるべきこと
- 副業制限には「合理的な理由」が必要
- 本業に悪影響を及ぼすことは絶対NG
ということを紹介しました。
私がこれらの判例を知ったのは、厚生労働省のホームページを見たからです。
労働に関する行政のトップ機関が、前述の副業・兼業に関する裁判例を紹介しているんですよ!
私は厚生労働省の”副業解禁に対する並々ならぬ想い”を感じました。副業解禁に向けてこれだけ国が後押ししてくれてるんですね!心強い!
とはいえ、やはり勤務先に副業バレするのはオススメできません。上司や同僚にグチグチ言われそうですし、営業成績が落ちれば副業のせいにされそうです。
副業バレを気にする方は以下の記事も参考にしてみてください。バレずに副業することは可能です!
皆さんの人生が好転するための情報の一つとなれば幸いです。ご拝読ありがとうございました。